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僕だけのアイドル♯72

散策から戻ると、フロント前で仲居さんに声をかけられる。

葵は繋いでいた奏の手を慌てて解いた。

「おかえりなさい。夕食ですが、お部屋でなさいますか?母屋でなさいますか?」

「葵、どうする?母屋で食べる時も個室でしたよね?」

「はい。個室になります」

「じゃあ、母屋で食べたい。奏はそれでもいい?」

「あぁ。じゃあ、母屋でお願いします」

「お時間は18時頃になりますが、よろしいですか?」

「「はい…」」

「かしこまりました。では、ごゆっくりお寛ぎ下さい」

会釈して去っていく仲居さんに会釈をし、部屋へと戻る。

「奏、夕飯までまだ時間あるけど、どうする?大浴場行ってみる?」

「………」

返事の無い奏に視線をやると、少し拗ねているような表情をしていた。

「奏?」

「……ん?どうした?」

「何か怒ってる?」

「別に……」

奏の後から両手を回し、頭を奏の背中に預ける。

「……じゃ、何かいじけてる?」

「………別にいじけてなんか…」

「う、そ。何かあった?」

「別に何も無いよ。さっき、いきなり無造作に手を解かれたから、ちょっと淋しくなっただけ」

「ふふふ。奏かわいい。もっとそういう小さな事でも今みたいに言って欲しいな。

あっ、さっきはごめんね。旅館に入る前に気づけばよかったんだけど、仲居さんに変に思われるかなと思って」

「ん、分かってる。オレ、ちょっとガキだな」

奏は、自分がこんな小さな事で、気持ちが浮き沈みする事に、自分自身も少し戸惑っていた。

「……葵、夕食前に温泉入りに行って、寝る前に部屋の温泉入ろう」

少しはにかみながら、恥ずかしそうに奏が言う。

葵は奏の前にまわり、前からもう一度奏を抱きしめた。

「奏、僕、幸せ。今日の夜も……」

「もちろん。葵、オレもだよ」



温泉に入って、夕食が準備させれてる個室に入る。

テーブル一杯に並べられた夕食を見て、
感嘆をあげる。

「…すごい…美味しそうだな」

「うん、本当に美味しいそう。早く、食べよう」

2人は席に着き、夕食を食べ始める。

「奏、今日は本当にありがとう。予約から、運転まで。1日お疲れさま」

「去年、一緒に記念日に祝えなかったし、今まで葵の事全然分かってなかったから、これで少しは挽回できたかな」

「僕は奏と一緒にいれるだけで、本当に幸せだよ」

「オレも。付き合い始めた頃よりどんどん好きになっていく。一緒に住む話もさ、あの時あんな風に言ったけど、本当は一緒に居たくてたまんない。だから、バイトのシフトいっぱい入って、早くお金貯めたかったんだ。でも、それが葵を不安にしてたと反省もしてる」

「奏……」

「頑張ってお金貯めるから、そしたら絶対一緒に住もう」

「…ん、待ってる」

その後も2人でゆっくり話をしながら夕食を堪能し、美味しい食事にすごく満足していた。
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